台風19号アンケート集計報告(2)

Q.5 多摩川が氾濫危険水位に達したことをどのようにして知りましたか?

氾濫危険水位到達を知ったきっかけ

16時頃、多摩川の石原水位観測所(調布市)で、いつ氾濫してもおかしくはないレベルである氾濫危険水位に到達しました。このことを知った情報源は携帯電話の緊急速報、TV/ラジオと続きました。「ネット」はTwitterやLINEを含んでいます。

Q.6 多摩川が氾濫するとここは最大5mの浸水が予測されていることはご存知でしたか?

ハザードマップで最大5m浸水を知っているか

もし多摩川が氾濫したら、ここは3m~5mの浸水が予測されると、狛江市のハザードマップ多摩川氾濫版に記載されています。これは建物でいうと2階まで被害が及ぶ深さです。約3分の2の方はご存知ありませんでした。
数年前の旧版では1m~2mの浸水予測となっていたので、「5mとは知らなかった」と書かれた方も見られました。狛江市防災ガイド(既配布の冊子)やウェブサイトでいま一度ご確認ください。

Q.7 16時頃の全館一斉放送はお聞きになりましたか? また、どのような行動をとりましたか?

全館一斉放送を聞いたか

同じく16時頃、一斉放送で「低層階の方は身の危険を感じたら上層階へ」と注意喚起を行いました。新しいインターホンは一斉放送が聞きとりやすく、在宅中のほぼ全部の方が「聞いた」と回答しています。

全館一斉放送を聞いてとった行動

このような形で一斉放送を行ったのは初めてのことで、聞いたところでどうしていいかわからないという方もいらしたようですが、低層階の方は避難の準備をするきっかけとなり、上層階の方は1・2階の方に声をかけたり、誰か来るかもと部屋を片付けるなど、受け入れ準備をしたという方もいました。
今後このような状況になった場合に戸惑うことなく避難・受け入れできる体制づくりが必要と感じました。

Q.8 避難勧告が発令されたことをどのようにして知りましたか? また、どのような行動をとりましたか?

避難勧告発令を知ったきっかけ

一斉放送後の16時30分頃には当地に避難勧告が発令されました。氾濫危険水位到達と同じく、多くの方が携帯電話の緊急速報でこれを知ったと回答しています。

避難勧告発令を聞いてとった行動

避難勧告発令後は、9名の方が安全な場所に避難したと回答しています。台風19号による浸水被災地では、上階がある建物にもかかわらず、1階にいて亡くなられた方が死亡者の半数だったという地区が複数あったそうです。早期に垂直避難することが大切です。

上層階の方は自宅待機を決めたと回答しています。今回テレビなどでも報道されたように、狛江市では避難所のキャパシティ不足が問題となりました。雨の中を荷物を持って歩き、たいへんな思いをして避難所に着いたのに、「満員なので別の避難所へ」と指示される可能性もあります。避難所に行く間も道路が冠水している場合はとても危険です。上層階の方はあわてずに自宅待機するのが安全です。

(3)に続く

台風19号アンケート集計報告(1)

居住者の皆さまには「台風19号通過時に関するアンケート」にご協力いただき、ありがとうございました。皆さまのお手もとに集計報告のチラシをお届けしましたが、こちらのサイトでは紙面に載せきれなかった項目も加えてご紹介していきます。

「台風19号通過時に関するアンケート」 とは

パーク・ハイム狛江では、これまで水害を想定した防災についてはあまり考えられてきませんでした。防災対策チームでは、多摩川がかつてない増水を見せた2019年の台風19号で、皆さまが感じられたことを調査して今後の水害対策に活かそうと、居住者アンケートを実施しました。アンケートは台風1週間後の10月19日、全住戸に配布し、10月末締切で回収、集計しました。

Q.1 どちらのお部屋にお住まいですか?

「台風19号通過時に関するアンケート」回収数

居住者の皆さまの関心は高く、全体では半数以上の方から回答をいただきました。棟別では1号棟にお住いの皆さまの関心度の高さが伺えます。 階別では下表のような分布状況でした。

階別回収率

Q.2 台風19号通過の日は在宅されていましたか?

前日から交通機関の計画運休や、企業や店舗が臨時休業を決めていたこともあり、当日はほとんどの方が在宅されていました。

Q.3 記録的被害をもたらす台風と聞いてどのような気持ちでしたか?

事前の気持ちキーワード

この自由記入の設問では、複数出現したキーワードをカウントし、グラフにしました。
すると、「川」や「氾濫・決壊」が「不安」「心配」であったことがわかりました。また、直前の台風15号で千葉県を中心に暴風による被害が目立ったためか、「雨」よりも「風」というキーワードが多く見られました。一方で中・高層階の方からは「安心・大丈夫」という文字も見られました。

Q.4 台風19号が来る前にご自分でとられた対策はありますか?

事前準備の有無とその内容

事前にテレビなどで「大きな被害をもたらす台風」と報じられていたこともあり、9割近くの方が何らかの対策をしたと回答しました。
具体的には断水や停電への備えのほか、直前の回答で多かった「風」に関連して、バルコニーの片付けや窓ガラスにテープを貼るなどの対策をした方が多かったようです。

(2)に続く

台風19号の影響その後(まとめ記事の訂正と追加)

以前の記事「2019年台風19号の影響のまとめ(2)」では、狛江市内の根川さくら通りと猪駒通り付近の被害を取り上げましたが、この2か所の浸水について、2019年10月25日付の東京新聞では「多摩川に雨水などを流す二カ所の排水路の水門を開けたままにしたため、増水して水位の上がった多摩川から水が逆流し、被害が広がった可能性がある」と報道しました。

狛江市が管理する六郷排水樋管の水門の写真と、猪方排水樋門も含めた地図
2019年10月25日 東京新聞より

台風19号の降雨により、狛江市内では多摩川住宅周辺、駒井町・猪方周辺で床上浸水92棟、床下浸水152棟(市発表・10月18日8時30分現在)の被害が確認されました。

多摩川住宅を取り囲むように流れる根川は、多摩川の五本松のすぐ上流で多摩川に流れ込んでいます。そこには「六郷排水樋管」という水門があり、通常時は水門が開いていて、根川の水を多摩川に流しています。

上記東京新聞の記事によると、台風19号による大雨となった10月12日は「16時から市職員と消防団員らがポンプを使い、根川から多摩川への排水作業を開始。18時には水門を一度閉め、排水作業を続けた。しかし、道路への冠水が広がったため、約20分後に水門を開けた。19時半、多摩川の基準水位が6メートルを超えたため、職員らは水門は開けたまま避難のため退去した。」とあります。

退去後も多摩川の水位は上昇し、水門が開いていた根川に逆流したものと思われます。被害は狛江市部分だけではなく、「調布市染地地区を中心に床上、床下合わせて約180軒が浸水」したとのこと。想像以上に大きな被害が出ていました。

猪方排水樋門を下流側の土手から見る
猪方排水樋門(土手下を水路が貫通している)
水門左の橋は災害時の緊急輸送用道路

記事では猪方排水樋門についても「水門は開けたまま、市職員らが監視。午後七時半に退去した。」とあり、排水を優先していたが水門を開けたまま退去してしまったため、多摩川の水位上昇で逆流が起こり周辺が冠水してしまったようです。

まとめ(3)の最後に挙げたように、大田区の田園調布でも多摩川の支流があふれ、広範囲な浸水がありました。こちらは水門を閉めて支流の水をポンプで多摩川に排水していましたが、避難勧告が出たのでポンプを止めて水門を閉めたまま作業員が退去、その後あふれてしまったとのことです。ポンプを動かしたまま退去してしまうと本流の多摩川にさらに水が流れ込むことになり危険なので、これは正しい判断のようです。ポンプを止めずに避難してしまったために問題となった埼玉県の越辺(おっぺ)川の例もあります。

多摩川は大河川で、全体的には国土交通省が管理していますが、そこに流れ込む支流の水門やポンプの操作は地元自治体に任されているとのことです。今回狛江市が行った水門の操作が正しかったかどうかはわかりませんが、国交省が流域全体を見て判断したり、流域自治体で連携をとったり、また水門やポンプの遠隔操作ができたりすれば、被害はもっと抑えられるのではないかと考えたりしますが、どうでしょうか。

汚水用と雨水用のマンホールふた
パーク・ハイム狛江店舗棟前道路のマンホール

まとめ(2)では猪方排水樋門について「下水道雨水幹線を多摩川に排出」と書きましたが、その補足です。

狛江市は比較的早い時期に下水道網を整備しましたが、地域により「合流式」と「分流式」の2種類があります。

「合流式」というのは家庭や事業所などから出る汚水と、道路の側溝などから流れる雨水を一つの管に集めて流す方式です。この方式は下水道幹線が1本ですむ一方、豪雨などで大量の雨水が流入すると末端の下水処理場の処理能力が足りなくなってしまうため、その手前で超過分を未処理のまま川や海に放流します。最近は東京オリンピックトライアスロン会場の水質問題でも話題になりました。

狛江市の合流式下水道は、雨量が増えて規定量を超えた場合は野川と入間川に排出されます。

一方、「分流式」では汚水用と雨水用に分けた2本の下水管を整備し、汚水は下水処理場へ、雨水は河川へと、別々に排出するので、上記のような問題が起きません。狛江市内では大雑把に言うと世田谷通りの北側が合流式、世田谷通り南側と多摩川住宅付近が分流式となっています。猪方排水樋門につながるのは分流式下水道の雨水管ということになります。大雨が降っても多摩川に汚水が流れ出すことがないわけです。

汚水マンホールのふた
汚水マンホールのふた
雨水マンホールのふた
雨水マンホールのふた

パーク・ハイム狛江前の市道にあるマンホールのふたを見てみると、「汚水」と表示があるふたと「雨水」の表示があるふたがあります。つまり、この地域は分流式下水道が整備されていることになります。雨水マンホールのふたに穴が開いているのは、集中豪雨などで大量の雨水が一気に流れ込んだときに空気を逃がし、流れをよくするためだそうです。汚水マンホールのふたに穴が開いていないのはその必要がなく、穴があると臭気が漏れてしまうからでしょう。市内でも合流式下水道のマンホールふたには「合流」の表示があるので、その地域がどちらの方式で整備されているかわかります。

さらにまとめ記事の訂正があります。まとめ(4)に記載した川崎市の武蔵小杉駅周辺の冠水についても10月24日の東京新聞の記事に原因の記載がありました。こちらは多摩川には関係なく合流式の下水道があふれたと当初言われていましたが、記事によるとやはり排水樋門がからんでいて、水門を閉めようとしたが閉まらず、長時間開いたままになってしまい、多摩川の水が逆流して入ってしまったことが原因としています。

浸水跡が残る自由ひろば下流側端
自由ひろば下流側端(10月27日撮影)

そしてもうひとつ。まとめ(1)では周辺の多摩川の最高水位について触れました。パーク・ハイム狛江より下流側にある一段高い高水敷(乗馬会などが行われる自由ひろばの部分)は浸水しなかったと書きましたが、決壊の碑がある場所の先は少し低くなっており、その部分には上の写真のように流れてきた草木が溜まった跡がありました。

新聞記事へのリンクは10月27日現在のものであり、今後記事が削除されるなどして表示できないこともあります。
下水道については狛江市の下水道総合計画書を参考にしました。

2019年台風19号の影響のまとめ(4)

川崎市の多摩川沿いの被害

NHKニュースより
テレビ朝日「報道ステーション」より
(右上サブタイトルは(3)で書いた世田谷区玉川のこと)

川崎市高津区の多摩川沿いとして報道された映像では、道路沿いのコンクリート壁から水がザブンザブンと押し寄せ、冠水した道路はみるみる水没していきました。

川崎市高津区久地・溝口周辺 (国土地理院10月13日撮影)

これは多摩川に流れ込む、支流の平瀬川があふれたもので、上の写真の水色に着色した範囲(おおよそ)で冠水被害があり、不幸なことに1階が水没したマンションでは男性1名が亡くなってしまいました。

川崎市高津区久地・溝口周辺 (国土地理院10月13日撮影)

水量が非常に大きくなっている多摩川に小さな平瀬川が流れ込むと、勢いがある多摩川の流れに反発され、平瀬川から多摩川に出ようとする水は逆流のようになって行き場を失い、あふれ出てしまったものと思われます。テレビ朝日では「バックウォーター現象」と説明していました。

冠水した地区は平瀬川と久地霞堤(くじかすみてい)というものに囲まれています。そのためあふれた水が低い土地の方へ流れることもできず、大きな被害が出てしまったのでしょう。

Googleマップより

霞堤というのは武田信玄が考えたとも伝えられている、古くからある治水法で、連続している堤防の一部を切って、下流側の堤防だけ川幅よりも広く斜めに延ばしておき、水量が増えすぎた場合にその水の一部を堤外に逃がし、堤防の決壊を防ぐものです。霞堤がある場所は農地など人が住まないところでしたから、人的被害は出さずに、逃した水は本流の水量が少なくなったら自然に戻るという合理的な構造になっていました。

わざと堤外に水を逃がし、本堤の決壊を防ぐ霞堤

霞堤は現在も全国各地で見られますが、多摩川ではここのほかに昭島に残り、宿河原付近でも川から離れたところにそれらしき痕跡が残っています。しかし人家ばかりになってしまった現在は、逆に今回のように冠水被害の原因の一つとなってしまったようです。

NHKニュースより

川崎市では中原区でも武蔵小杉駅周辺が冠水しました。被害は道路だけでなく、駅の構内や周辺の店舗や住宅にも及びました。すでに報道でご存知のことと思いますが、地下の電気室が水没し、エレベーターが動かず、下水処理ができずトイレも使えなくなったというタワーマンションもあるようです。復旧には1週間程度かかるとのことで、居住者はたいへんな思いをされていることでしょう。

この武蔵小杉駅周辺の冠水は多摩川が直接の原因ではなく、暗渠や下水道から吹き出した水だったということです。(→10月27日訂正記事:多摩川の水の逆流が原因か)

4つに分けて台風19号のまとめをしました。多摩川のような大河川が近くにあると、洪水といっても色々なパターンがあることがわかりました。

多摩川の真横で暮らす私たちはこれを一つの経験として記憶に刻んでおくべきです。防災対策チームでも水害対策にいっそう力を入れてまいりますので、今後も皆さまのご理解、ご協力をお願いいたします。

※本文中、冠水の原因に関する記述は推測であり、事実と異なる場合もありえます。

その後の訂正と追加記事に続く